創元社刊「木工具・使用法」

 このたび、長く絶版となっていた創元社刊「木工具・使用法」(吉見誠述/秋岡芳夫監修)の復刻版が出版となり、ご縁があって帯に推薦文を書かせて頂きました。

      

『私の道具愛はこの本から始まった。』

      

15字とあまりに短いので文と言うよりはコピー、檄文です。「道具愛」という言葉があるのかどうかわかりませんが、より多くの方に手に取っていただけるようにと考えました。

      

 原本は昭和10年に府立工芸学校の教諭であった吉見先生がいわば木材工芸科(家具製作科)の教科書として著わしたもの。ちなみに府立工芸は私の母校、水道橋にある都立工芸高校の前身です。吉見先生はもともと芝の家具職人であったため、その記述は実際の使用に裏付けられた詳細なものです。

      

 日本は木の国、木工の国と言われながら実際はその関係書、特に道具の仕立て方、使い方を詳細に述べた本はほとんどないのです。その中にあって本書は、その実用に即した正確な記述で、私が一番信用している本です。

 

この本の価値に気付いた工業デザイナーの故秋岡芳夫先生が40年前に監修・復刻しました。秋岡先生は私も若い頃にいろいろとご指導いただきました。先生は高等工芸の木材工芸科を卒業され、工業デザイナーとして大変活躍された方。皆さんもきっとどこかで秋岡先生のデザインした製品を使っているはずです。超一流の工業デザイナーでしたが、出自からもわかるとおり木工がとても好きで、自宅に工房を造って制作をしていました。私のような家業としての木工家とは違う視点で取り組む木工には大いに刺激されたものです。今の私の制作のスタンスには秋岡先生からの薫陶が大いに関係しています。そんな先生ですからこの本の復刻を思い立ったのでしょう。

      

 以来、私はこの本を多くの木工を学ぶ若者に薦めてきましたが、この復刻版も絶版になりとても残念に思っていました。そこへこのたび二度目の復刻となりました。多くの木工家の希望に出版社が応えてくれました、ありがたいことです。ぜひ多くの方に読まれることを期待しています。

 

 この本が最初に出版された昭和10年頃は木工の作り手にも、また道具の作り手にも名人上手が多くいた黄金時代です。木工具も完成された時代ですが、工業化・情報化の進んだ現在においても多くの道具がそのまま使われ、この本が参考になるのはすごいことです。しかしその後80年の間にこれに代わる本が出ていないことが誠に残念です。時代は変わっていますからやはりここは補訂版、また日本の木工への世界の眼を考えれば英語版が期待されますね。

 

創元社

https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=1301