MOA美術館友の会季刊誌「美の友」二〇二一年十月号

MOA美術館友の会季刊誌「美の友」二〇二一年十月号に須田が取り上げられました。

表紙には栃拭漆嵌装小箪笥「水光接天」を掲載頂き、製作の過程についても紙面で特集頂きました。ご覧ください。

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【湯けむりフォーラム2021】人間国宝 須田賢司-清雅の世界-

 このたび、私が工房を置く群馬県が、須田の紹介動画「【湯けむりフォーラム2021】人間国宝 須田賢司-清雅の世界-」を作ってくださいました。

 動画冒頭の「tsulunos(ツルノス)」は群馬県庁32階展望ホールに開設された動画・放送スタジオで、群馬県の魅力や県民が必要とする情報を動画にまとめ発信しています。”鶴舞う形の群馬県”と云われるところからの命名です。

 20分ほどの動画では、作品や工房のある甘楽町の風景の紹介、また館林美術館特別館長の佐々木正直先生との対談を交えながら、私の生い立ち~甘楽町への移住~海外との交流~後継者養成等について触れられています。ぜひご覧ください。

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第68回日本伝統工芸展 受賞作品紹介

このたびの第68回日本伝統工芸展に際しては、昨今のコロナ禍を受けてギャラリートークが中止となったことを受けて、受賞作品の紹介をYouTube上で行いました。木竹工については、須田が担当しております(00:20:46頃より)。ご覧ください。

 

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楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹」について

楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹」/須田賢司

楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹(あめのうみに)」

 

 天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

 

もともと仕事三昧の私ですが、コロナ禍で私はいつも以上に工房に籠って仕事ばかりしています。そこで本年は制作に集中できたという点においては例年以上に力を入れた作品になりました。現代の工藝は使うこと=道具というより、すでに「表現の工藝」という側面が強くなっています。手間のかかる良質な木工藝の仕事は特に何かのためというより表現行為の中にこそ生き延びることが出来ると思っています。

そこで以前から言ってみれば外見は単なる小箪笥や箱の作品に題名を付けるようにしています。それはあたかもベートーヴェンの交響曲第5番を「運命」と呼ぶように、端的にその作品世界に人々を引き込む力があります。中でも漢詩の一節を題とした作品群は、その詩が描く世界や漢詩を日本語で読み下すときの独特なリズムを連想し、思い描く理想の文人世界へと私を誘ってくれることを願っていました。しかし齢を重ね近頃は漢詩の世界が少し苛烈に感じられ、湿潤な天地(あめつち)に育まれた萬葉の世界に心惹かれることが多くなりました。

上記の和歌は萬葉集巻の七の冒頭を飾る雜歌、天を詠める歌として有名です。作者は柿本人麻呂と言われていますが諸説あるようです。今回はこの歌に惹かれて作品となりました。(なお萬葉集では「天海丹」となっていますが、作品名はあえて萬葉仮名風に表記しました。)

 満天の星空を海に見立て月の船で漕ぎ出すという、何とも壮大な世界がたった三十一文字で表現されています。この壮大な情景を読むことはそれこそ漢詩の影響も指摘されるようです。人麻呂のような教養人にとってこの時代、漢詩の素養は必須だったのでしょう。しかし私にとってこの指摘は漢詩の世界観を咀嚼し、和の世界観に止揚した結果のように感じられ一層この和歌の世界に惹かれました。

 このテーマを小箪笥の中に閉じ込めました。白いシカモア材の下部に黒色材をあしらい、そこに各種蝶貝で星空を象嵌しました。黒漆地の螺鈿と違い、木目が織りなす変化にとんだ混沌をバックとした木地象嵌もいいものです。中を開けると月の船が現れます。山桜材で出来た2杯の抽斗の間の棚板はあえて通常よりぐっと厚くしてそこにも金とプラチナの星が輝きます。月は銀に金銷仕上げをした後さらに銀箔を焼き付け表情に変化を付けました。

楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹」/須田賢司
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赤松皮付小丸太掛け花入れ(金彩月装)について

 木工芸はあたかも画家がパレットから絵具をとるように、自然の描いた木目、木の表情をよりどころとして作品を生み出します。ですが絵とは異なり木の表情を私たちが自由に描くことはできません。しかし「この木の、この部分で作る」のであって「あの部分」では決してないという時、作者の強靭な意志の下、切り取った木材は自然が作った素材からはじめて作品の要素へと転化します。素材の美しさといってもあくまでそれは作者の生み出したものだとも言えるのです。

とはいっても自然の造形の妙には心打たれるものがあり、常日頃はどうしても銘木に、それも鮪で言えば大トロのような、良材中の良材に目が行くのも事実です。2000本に1本ようやく出現するような縮み杢の楓などその好例です。その木目、木味をまるで自身が描かの気持ちで作品に使ってきました。しかしこのような制作を続けていると、もっと素直に木材の生命感や素材感を生かしたいとの思いが沸き上ってきます。そんな時に我が家の木材倉庫の片隅でこの材が目に留まりました。

赤松皮付の小丸太は通常は数寄屋普請の軒垂木などに使われるようですが、我が家では茶道具、有楽好自在棚に使うために支度してありました。父の下で仕事の修業を始めて後、茶道具、特に棚物は一通り作らされました。細かい決まり事ばかりで工夫の余地はあまりありませんでしたが、日本人の持つ白木に対する思いや木割の美しさを知るきっかけともなりました。その中でもこの自在棚は変わりものでなかなかメカニックな構成になっていて面白いものでした。この棚の大きなポイントが柱に使われた赤松皮付で、このために父が支度がしていたのです。

松は常盤木として古より神の宿る木として大切にされており、正月の松飾りは現代でもなお続いています。この葉の緑も幹の赤茶色との対比でその美しさが一層引き立ちます。葉そのものは枯れてしまうため、幹の美しさや吉祥性を取り込むものとして、赤松の皮付床柱はなかでも格の高いものとされています。そこでこの細い丸太をそのまま生かして、今まで各種素材で作ってきた掛け花入れにしてみようと思い立ちました。しかし父が木取りをしてから30余年経つ材は折角の皮目に傷がついていましたので新たに手配をしたのですがこれがなかなかの難事でした。

もともと建築用に流通する材ですから長さは8尺程度あります。この真っ直ぐな8尺の中に節がなく末口と元口の直径は1寸位でほとんど変化なく皮目にも傷のない材など考えただけでも奇跡的です。しかも人工的に作ったものではなく、実生苗から育ち密生した自然林の中で上部にだけ葉が茂り、陽の当らない下部の枝は枯れ、さらに隣の木と擦れ合って自然に落ちて節が包まれたものなのです。これを根気よく探し出し、夏の暑い盛りに炭火であぶって害虫の駆除などの手入れをする山師は今はもういません。さらに悪いことに松枯れ病が蔓延し松材そのものが危機に瀕しています。父の代より取引のある材木商にもすでになく、東京の木場中を探してようやく手に入れました。ちなみに在庫のみで今後の入荷は望めないとの事です。

丁寧に鬼皮を剥ぎ整えられた赤い肌は何ともいえず美しいものです。それを一層引き立てるために一部のみ削り落し白い木部を露出させました。丁度茶杓筒で竹の表皮を一部そぎ落とすような感覚です。このように松そのもので十分美しいのですが、作者としてはもう少し物語性がほしくなりました。そこで古来「雪月花」として日本人に好まれてきたモチーフの中でも、復活と再生、繁栄の象徴でもあり吉祥性に富む「月」を加えてみました。素材は銀ですが金銷(きんけし)を施し金彩として輝く三日月と致しました。金銷は奈良時代より行われている仕上げ法で、奈良の大仏様もこの技法で仕上げられ当初は燦然と輝いていたはずです。輝きと言っても工業的仕上げと違い落ち着いた金色が特徴で、仕上げ前後で目方が変るほど金が付きます。

素材感を生かすと言っても松の表皮は何もしないと多少はがれますし汚れも付きます。そこで発掘木造文化財などの固化に使う特殊樹脂を含侵させています。ですから多少の水拭きは大丈夫ですがあまり強くこすることは避けてください。

この花入れは材の美しさが一番の見所ですが、その美しさを引き立て日常の中に取り込むお手伝いをしたいと念じ制作いたしました。

木工藝  須 田 賢 司  


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【展覧会】Gallery A4「樹の一脚展 人の営みと森の再生」

 

 

 

 

東京・江東区にあるGallery A4ギャラリーエークワッド)にて「樹の一脚展 人の営みと森の再生」が開催されています。

「樹の一脚展 人の営みと森の再生」

会期25日~331

場所Gallery A410001800 日・祝日休館)

東京都江東区新砂111 竹中工務店東京本店1

 

私たち木工家は作品の材料となる木材をいつもは材木店で買っています。日本の材木店には多くの樹種且つ色々なサイズの材が揃い、それは世界的にもまれにみる充実度だと思います。大量に流通するためには大量に伐採する必要があり、自然破壊にもつながります。地球規模での異常気象が指摘される現代にあって、このような自然の消費の仕方がよいとは決して言えません。ならばその対抗軸として、自分の居住地域に育つ材を使うことを考えよう、という視点でこの展覧会は企画されました。

私には埼玉県川越近郊の「三富=サントメ」地区の材が与えられました。三富地区は最近でこそ語られるようになった”持続可能社会”の在り方を江戸時代から実践していた場所で、その歴史や実際のおこないは大変興味深く、当地の材を使うのはまた意義深いものです。シデ材を使いましたが庭木でいえば「ソロ」です。武蔵野の雑木林の木ですね。一般的な用途は布を織る機に使う「杼=ヒ=シャトル」くらいしか思い浮かびませんが、密度が高い材なので個人的には以前ペーパーナイフを作ったことがあります。同材で椅子を制作した経験はなく、性質を見極めようと薄板にして曲げるなどすると、粘りと強度は十分にあることがわかりました。ぱっと見は白っぽい材色以外に特徴のあるわけではありませんが、よく見れば年輪が均一、材の白さは無機的な感じで作品の形を際立たせてくれるように思います。


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【書籍情報】創元社刊「木工具・使用法」

 このたび、長く絶版となっていた創元社刊「木工具・使用法」(吉見誠述/秋岡芳夫監修)の復刻版が出版となり、ご縁があって帯に推薦文を書かせて頂きました。

      

『私の道具愛はこの本から始まった。』

      

15字とあまりに短いので文と言うよりはコピー、檄文です。「道具愛」という言葉があるのかどうかわかりませんが、より多くの方に手に取っていただけるようにと考えました。

      

 原本は昭和10年に府立工芸学校の教諭であった吉見先生がいわば木材工芸科(家具製作科)の教科書として著わしたもの。ちなみに府立工芸は私の母校、水道橋にある都立工芸高校の前身です。吉見先生はもともと芝の家具職人であったため、その記述は実際の使用に裏付けられた詳細なものです。

      

 日本は木の国、木工の国と言われながら実際はその関係書、特に道具の仕立て方、使い方を詳細に述べた本はほとんどないのです。その中にあって本書は、その実用に即した正確な記述で、私が一番信用している本です。

 

この本の価値に気付いた工業デザイナーの故秋岡芳夫先生が40年前に監修・復刻しました。秋岡先生は私も若い頃にいろいろとご指導いただきました。先生は高等工芸の木材工芸科を卒業され、工業デザイナーとして大変活躍された方。皆さんもきっとどこかで秋岡先生のデザインした製品を使っているはずです。超一流の工業デザイナーでしたが、出自からもわかるとおり木工がとても好きで、自宅に工房を造って制作をしていました。私のような家業としての木工家とは違う視点で取り組む木工には大いに刺激されたものです。今の私の制作のスタンスには秋岡先生からの薫陶が大いに関係しています。そんな先生ですからこの本の復刻を思い立ったのでしょう。

      

 以来、私はこの本を多くの木工を学ぶ若者に薦めてきましたが、この復刻版も絶版になりとても残念に思っていました。そこへこのたび二度目の復刻となりました。多くの木工家の希望に出版社が応えてくれました、ありがたいことです。ぜひ多くの方に読まれることを期待しています。

 

 この本が最初に出版された昭和10年頃は木工の作り手にも、また道具の作り手にも名人上手が多くいた黄金時代です。木工具も完成された時代ですが、工業化・情報化の進んだ現在においても多くの道具がそのまま使われ、この本が参考になるのはすごいことです。しかしその後80年の間にこれに代わる本が出ていないことが誠に残念です。時代は変わっていますからやはりここは補訂版、また日本の木工への世界の眼を考えれば英語版が期待されますね。

 

創元社

https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=1301


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MOA美術館友の会季刊誌「美の友」二〇二一年十月号

MOA美術館友の会季刊誌「美の友」二〇二一年十月号に須田が取り上げられました。

表紙には栃拭漆嵌装小箪笥「水光接天」を掲載頂き、製作の過程についても紙面で特集頂きました。ご覧ください。

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【湯けむりフォーラム2021】人間国宝 須田賢司-清雅の世界-

 このたび、私が工房を置く群馬県が、須田の紹介動画「【湯けむりフォーラム2021】人間国宝 須田賢司-清雅の世界-」を作ってくださいました。

 動画冒頭の「tsulunos(ツルノス)」は群馬県庁32階展望ホールに開設された動画・放送スタジオで、群馬県の魅力や県民が必要とする情報を動画にまとめ発信しています。”鶴舞う形の群馬県”と云われるところからの命名です。

 20分ほどの動画では、作品や工房のある甘楽町の風景の紹介、また館林美術館特別館長の佐々木正直先生との対談を交えながら、私の生い立ち~甘楽町への移住~海外との交流~後継者養成等について触れられています。ぜひご覧ください。

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第68回日本伝統工芸展 受賞作品紹介

このたびの第68回日本伝統工芸展に際しては、昨今のコロナ禍を受けてギャラリートークが中止となったことを受けて、受賞作品の紹介をYouTube上で行いました。木竹工については、須田が担当しております(00:20:46頃より)。ご覧ください。

 

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楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹」について

楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹」/須田賢司

楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹(あめのうみに)」

 

 天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

 

もともと仕事三昧の私ですが、コロナ禍で私はいつも以上に工房に籠って仕事ばかりしています。そこで本年は制作に集中できたという点においては例年以上に力を入れた作品になりました。現代の工藝は使うこと=道具というより、すでに「表現の工藝」という側面が強くなっています。手間のかかる良質な木工藝の仕事は特に何かのためというより表現行為の中にこそ生き延びることが出来ると思っています。

そこで以前から言ってみれば外見は単なる小箪笥や箱の作品に題名を付けるようにしています。それはあたかもベートーヴェンの交響曲第5番を「運命」と呼ぶように、端的にその作品世界に人々を引き込む力があります。中でも漢詩の一節を題とした作品群は、その詩が描く世界や漢詩を日本語で読み下すときの独特なリズムを連想し、思い描く理想の文人世界へと私を誘ってくれることを願っていました。しかし齢を重ね近頃は漢詩の世界が少し苛烈に感じられ、湿潤な天地(あめつち)に育まれた萬葉の世界に心惹かれることが多くなりました。

上記の和歌は萬葉集巻の七の冒頭を飾る雜歌、天を詠める歌として有名です。作者は柿本人麻呂と言われていますが諸説あるようです。今回はこの歌に惹かれて作品となりました。(なお萬葉集では「天海丹」となっていますが、作品名はあえて萬葉仮名風に表記しました。)

 満天の星空を海に見立て月の船で漕ぎ出すという、何とも壮大な世界がたった三十一文字で表現されています。この壮大な情景を読むことはそれこそ漢詩の影響も指摘されるようです。人麻呂のような教養人にとってこの時代、漢詩の素養は必須だったのでしょう。しかし私にとってこの指摘は漢詩の世界観を咀嚼し、和の世界観に止揚した結果のように感じられ一層この和歌の世界に惹かれました。

 このテーマを小箪笥の中に閉じ込めました。白いシカモア材の下部に黒色材をあしらい、そこに各種蝶貝で星空を象嵌しました。黒漆地の螺鈿と違い、木目が織りなす変化にとんだ混沌をバックとした木地象嵌もいいものです。中を開けると月の船が現れます。山桜材で出来た2杯の抽斗の間の棚板はあえて通常よりぐっと厚くしてそこにも金とプラチナの星が輝きます。月は銀に金銷仕上げをした後さらに銀箔を焼き付け表情に変化を付けました。

楓嵌装小箪笥「安売乃宇美丹」/須田賢司
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赤松皮付小丸太掛け花入れ(金彩月装)について

 木工芸はあたかも画家がパレットから絵具をとるように、自然の描いた木目、木の表情をよりどころとして作品を生み出します。ですが絵とは異なり木の表情を私たちが自由に描くことはできません。しかし「この木の、この部分で作る」のであって「あの部分」では決してないという時、作者の強靭な意志の下、切り取った木材は自然が作った素材からはじめて作品の要素へと転化します。素材の美しさといってもあくまでそれは作者の生み出したものだとも言えるのです。

とはいっても自然の造形の妙には心打たれるものがあり、常日頃はどうしても銘木に、それも鮪で言えば大トロのような、良材中の良材に目が行くのも事実です。2000本に1本ようやく出現するような縮み杢の楓などその好例です。その木目、木味をまるで自身が描かの気持ちで作品に使ってきました。しかしこのような制作を続けていると、もっと素直に木材の生命感や素材感を生かしたいとの思いが沸き上ってきます。そんな時に我が家の木材倉庫の片隅でこの材が目に留まりました。

赤松皮付の小丸太は通常は数寄屋普請の軒垂木などに使われるようですが、我が家では茶道具、有楽好自在棚に使うために支度してありました。父の下で仕事の修業を始めて後、茶道具、特に棚物は一通り作らされました。細かい決まり事ばかりで工夫の余地はあまりありませんでしたが、日本人の持つ白木に対する思いや木割の美しさを知るきっかけともなりました。その中でもこの自在棚は変わりものでなかなかメカニックな構成になっていて面白いものでした。この棚の大きなポイントが柱に使われた赤松皮付で、このために父が支度がしていたのです。

松は常盤木として古より神の宿る木として大切にされており、正月の松飾りは現代でもなお続いています。この葉の緑も幹の赤茶色との対比でその美しさが一層引き立ちます。葉そのものは枯れてしまうため、幹の美しさや吉祥性を取り込むものとして、赤松の皮付床柱はなかでも格の高いものとされています。そこでこの細い丸太をそのまま生かして、今まで各種素材で作ってきた掛け花入れにしてみようと思い立ちました。しかし父が木取りをしてから30余年経つ材は折角の皮目に傷がついていましたので新たに手配をしたのですがこれがなかなかの難事でした。

もともと建築用に流通する材ですから長さは8尺程度あります。この真っ直ぐな8尺の中に節がなく末口と元口の直径は1寸位でほとんど変化なく皮目にも傷のない材など考えただけでも奇跡的です。しかも人工的に作ったものではなく、実生苗から育ち密生した自然林の中で上部にだけ葉が茂り、陽の当らない下部の枝は枯れ、さらに隣の木と擦れ合って自然に落ちて節が包まれたものなのです。これを根気よく探し出し、夏の暑い盛りに炭火であぶって害虫の駆除などの手入れをする山師は今はもういません。さらに悪いことに松枯れ病が蔓延し松材そのものが危機に瀕しています。父の代より取引のある材木商にもすでになく、東京の木場中を探してようやく手に入れました。ちなみに在庫のみで今後の入荷は望めないとの事です。

丁寧に鬼皮を剥ぎ整えられた赤い肌は何ともいえず美しいものです。それを一層引き立てるために一部のみ削り落し白い木部を露出させました。丁度茶杓筒で竹の表皮を一部そぎ落とすような感覚です。このように松そのもので十分美しいのですが、作者としてはもう少し物語性がほしくなりました。そこで古来「雪月花」として日本人に好まれてきたモチーフの中でも、復活と再生、繁栄の象徴でもあり吉祥性に富む「月」を加えてみました。素材は銀ですが金銷(きんけし)を施し金彩として輝く三日月と致しました。金銷は奈良時代より行われている仕上げ法で、奈良の大仏様もこの技法で仕上げられ当初は燦然と輝いていたはずです。輝きと言っても工業的仕上げと違い落ち着いた金色が特徴で、仕上げ前後で目方が変るほど金が付きます。

素材感を生かすと言っても松の表皮は何もしないと多少はがれますし汚れも付きます。そこで発掘木造文化財などの固化に使う特殊樹脂を含侵させています。ですから多少の水拭きは大丈夫ですがあまり強くこすることは避けてください。

この花入れは材の美しさが一番の見所ですが、その美しさを引き立て日常の中に取り込むお手伝いをしたいと念じ制作いたしました。

木工藝  須 田 賢 司  


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【展覧会】Gallery A4「樹の一脚展 人の営みと森の再生」

 

 

 

 

東京・江東区にあるGallery A4ギャラリーエークワッド)にて「樹の一脚展 人の営みと森の再生」が開催されています。

「樹の一脚展 人の営みと森の再生」

会期25日~331

場所Gallery A410001800 日・祝日休館)

東京都江東区新砂111 竹中工務店東京本店1

 

私たち木工家は作品の材料となる木材をいつもは材木店で買っています。日本の材木店には多くの樹種且つ色々なサイズの材が揃い、それは世界的にもまれにみる充実度だと思います。大量に流通するためには大量に伐採する必要があり、自然破壊にもつながります。地球規模での異常気象が指摘される現代にあって、このような自然の消費の仕方がよいとは決して言えません。ならばその対抗軸として、自分の居住地域に育つ材を使うことを考えよう、という視点でこの展覧会は企画されました。

私には埼玉県川越近郊の「三富=サントメ」地区の材が与えられました。三富地区は最近でこそ語られるようになった”持続可能社会”の在り方を江戸時代から実践していた場所で、その歴史や実際のおこないは大変興味深く、当地の材を使うのはまた意義深いものです。シデ材を使いましたが庭木でいえば「ソロ」です。武蔵野の雑木林の木ですね。一般的な用途は布を織る機に使う「杼=ヒ=シャトル」くらいしか思い浮かびませんが、密度が高い材なので個人的には以前ペーパーナイフを作ったことがあります。同材で椅子を制作した経験はなく、性質を見極めようと薄板にして曲げるなどすると、粘りと強度は十分にあることがわかりました。ぱっと見は白っぽい材色以外に特徴のあるわけではありませんが、よく見れば年輪が均一、材の白さは無機的な感じで作品の形を際立たせてくれるように思います。


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【書籍情報】創元社刊「木工具・使用法」

 このたび、長く絶版となっていた創元社刊「木工具・使用法」(吉見誠述/秋岡芳夫監修)の復刻版が出版となり、ご縁があって帯に推薦文を書かせて頂きました。

      

『私の道具愛はこの本から始まった。』

      

15字とあまりに短いので文と言うよりはコピー、檄文です。「道具愛」という言葉があるのかどうかわかりませんが、より多くの方に手に取っていただけるようにと考えました。

      

 原本は昭和10年に府立工芸学校の教諭であった吉見先生がいわば木材工芸科(家具製作科)の教科書として著わしたもの。ちなみに府立工芸は私の母校、水道橋にある都立工芸高校の前身です。吉見先生はもともと芝の家具職人であったため、その記述は実際の使用に裏付けられた詳細なものです。

      

 日本は木の国、木工の国と言われながら実際はその関係書、特に道具の仕立て方、使い方を詳細に述べた本はほとんどないのです。その中にあって本書は、その実用に即した正確な記述で、私が一番信用している本です。

 

この本の価値に気付いた工業デザイナーの故秋岡芳夫先生が40年前に監修・復刻しました。秋岡先生は私も若い頃にいろいろとご指導いただきました。先生は高等工芸の木材工芸科を卒業され、工業デザイナーとして大変活躍された方。皆さんもきっとどこかで秋岡先生のデザインした製品を使っているはずです。超一流の工業デザイナーでしたが、出自からもわかるとおり木工がとても好きで、自宅に工房を造って制作をしていました。私のような家業としての木工家とは違う視点で取り組む木工には大いに刺激されたものです。今の私の制作のスタンスには秋岡先生からの薫陶が大いに関係しています。そんな先生ですからこの本の復刻を思い立ったのでしょう。

      

 以来、私はこの本を多くの木工を学ぶ若者に薦めてきましたが、この復刻版も絶版になりとても残念に思っていました。そこへこのたび二度目の復刻となりました。多くの木工家の希望に出版社が応えてくれました、ありがたいことです。ぜひ多くの方に読まれることを期待しています。

 

 この本が最初に出版された昭和10年頃は木工の作り手にも、また道具の作り手にも名人上手が多くいた黄金時代です。木工具も完成された時代ですが、工業化・情報化の進んだ現在においても多くの道具がそのまま使われ、この本が参考になるのはすごいことです。しかしその後80年の間にこれに代わる本が出ていないことが誠に残念です。時代は変わっていますからやはりここは補訂版、また日本の木工への世界の眼を考えれば英語版が期待されますね。

 

創元社

https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=1301


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