木工芸はあたかも画家がパレットから絵具をとるように、自然の描いた木目、木の表情をよりどころとして作品を生み出します。ですが絵とは異なり木の表情を私たちが自由に描くことはできません。しかし「この木の、この部分で作る」のであって「あの部分」では決してないという時、作者の強靭な意志の下、切り取った木材は自然が作った素材からはじめて作品の要素へと転化します。素材の美しさといってもあくまでそれは作者の生み出したものだとも言えるのです。
とはいっても自然の造形の妙には心打たれるものがあり、常日頃はどうしても銘木に、それも鮪で言えば大トロのような、良材中の良材に目が行くのも事実です。2000本に1本ようやく出現するような縮み杢の楓などその好例です。その木目、木味をまるで自身が描かの気持ちで作品に使ってきました。しかしこのような制作を続けていると、もっと素直に木材の生命感や素材感を生かしたいとの思いが沸き上ってきます。そんな時に我が家の木材倉庫の片隅でこの材が目に留まりました。
赤松皮付の小丸太は通常は数寄屋普請の軒垂木などに使われるようですが、我が家では茶道具、有楽好自在棚に使うために支度してありました。父の下で仕事の修業を始めて後、茶道具、特に棚物は一通り作らされました。細かい決まり事ばかりで工夫の余地はあまりありませんでしたが、日本人の持つ白木に対する思いや木割の美しさを知るきっかけともなりました。その中でもこの自在棚は変わりものでなかなかメカニックな構成になっていて面白いものでした。この棚の大きなポイントが柱に使われた赤松皮付で、このために父が支度がしていたのです。
松は常盤木として古より神の宿る木として大切にされており、正月の松飾りは現代でもなお続いています。この葉の緑も幹の赤茶色との対比でその美しさが一層引き立ちます。葉そのものは枯れてしまうため、幹の美しさや吉祥性を取り込むものとして、赤松の皮付床柱はなかでも格の高いものとされています。そこでこの細い丸太をそのまま生かして、今まで各種素材で作ってきた掛け花入れにしてみようと思い立ちました。しかし父が木取りをしてから30余年経つ材は折角の皮目に傷がついていましたので新たに手配をしたのですがこれがなかなかの難事でした。
もともと建築用に流通する材ですから長さは8尺程度あります。この真っ直ぐな8尺の中に節がなく末口と元口の直径は1寸位でほとんど変化なく皮目にも傷のない材など考えただけでも奇跡的です。しかも人工的に作ったものではなく、実生苗から育ち密生した自然林の中で上部にだけ葉が茂り、陽の当らない下部の枝は枯れ、さらに隣の木と擦れ合って自然に落ちて節が包まれたものなのです。これを根気よく探し出し、夏の暑い盛りに炭火であぶって害虫の駆除などの手入れをする山師は今はもういません。さらに悪いことに松枯れ病が蔓延し松材そのものが危機に瀕しています。父の代より取引のある材木商にもすでになく、東京の木場中を探してようやく手に入れました。ちなみに在庫のみで今後の入荷は望めないとの事です。
丁寧に鬼皮を剥ぎ整えられた赤い肌は何ともいえず美しいものです。それを一層引き立てるために一部のみ削り落し白い木部を露出させました。丁度茶杓筒で竹の表皮を一部そぎ落とすような感覚です。このように松そのもので十分美しいのですが、作者としてはもう少し物語性がほしくなりました。そこで古来「雪月花」として日本人に好まれてきたモチーフの中でも、復活と再生、繁栄の象徴でもあり吉祥性に富む「月」を加えてみました。素材は銀ですが金銷(きんけし)を施し金彩として輝く三日月と致しました。金銷は奈良時代より行われている仕上げ法で、奈良の大仏様もこの技法で仕上げられ当初は燦然と輝いていたはずです。輝きと言っても工業的仕上げと違い落ち着いた金色が特徴で、仕上げ前後で目方が変るほど金が付きます。
素材感を生かすと言っても松の表皮は何もしないと多少はがれますし汚れも付きます。そこで発掘木造文化財などの固化に使う特殊樹脂を含侵させています。ですから多少の水拭きは大丈夫ですがあまり強くこすることは避けてください。
この花入れは材の美しさが一番の見所ですが、その美しさを引き立て日常の中に取り込むお手伝いをしたいと念じ制作いたしました。
木工藝 須 田 賢 司
東京・江東区にあるGallery A4(ギャラリーエークワッド)にて「樹の一脚展 人の営みと森の再生」が開催されています。
会期2月5日~3月31日
場所Gallery A4(10:00-18:00 日・祝日休館)
私たち木工家は作品の材料となる木材をいつもは材木店で買っています。日本の材木店には多くの樹種且つ色々なサイズの材が揃い、それは世界的にもまれにみる充実度だと思います。大量に流通するためには大量に伐採する必要があり、自然破壊にもつながります。地球規模での異常気象が指摘される現代にあって、このような自然の消費の仕方がよいとは決して言えません。ならばその対抗軸として、自分の居住地域に育つ材を使うことを考えよう、という視点でこの展覧会は企画されました。
私には埼玉県川越近郊の「三富=サントメ」地区の材が与えられました。三富地区は最近でこそ語られるようになった”持続可能社会”の在り方を江戸時代から実践していた場所で、その歴史や実際のおこないは大変興味深く、当地の材を使うのはまた意義深いものです。シデ材を使いましたが庭木でいえば「ソロ」です。武蔵野の雑木林の木ですね。一般的な用途は布を織る機に使う「杼=ヒ=シャトル」くらいしか思い浮かびませんが、密度が高い材なので個人的には以前ペーパーナイフを作ったことがあります。同材で椅子を制作した経験はなく、性質を見極めようと薄板にして曲げるなどすると、粘りと強度は十分にあることがわかりました。ぱっと見は白っぽい材色以外に特徴のあるわけではありませんが、よく見れば年輪が均一、材の白さは無機的な感じで作品の形を際立たせてくれるように思います。
このたび、長く絶版となっていた創元社刊「木工具・使用法」(吉見誠述/秋岡芳夫監修)の復刻版が出版となり、ご縁があって帯に推薦文を書かせて頂きました。
『私の道具愛はこの本から始まった。』
15字とあまりに短いので文と言うよりはコピー、檄文です。「道具愛」という言葉があるのかどうかわかりませんが、より多くの方に手に取っていただけるようにと考えました。
原本は昭和10年に府立工芸学校の教諭であった吉見先生がいわば木材工芸科(家具製作科)の教科書として著わしたもの。ちなみに府立工芸は私の母校、水道橋にある都立工芸高校の前身です。吉見先生はもともと芝の家具職人であったため、その記述は実際の使用に裏付けられた詳細なものです。
日本は木の国、木工の国と言われながら実際はその関係書、特に道具の仕立て方、使い方を詳細に述べた本はほとんどないのです。その中にあって本書は、その実用に即した正確な記述で、私が一番信用している本です。
この本の価値に気付いた工業デザイナーの故秋岡芳夫先生が40年前に監修・復刻しました。秋岡先生は私も若い頃にいろいろとご指導いただきました。先生は高等工芸の木材工芸科を卒業され、工業デザイナーとして大変活躍された方。皆さんもきっとどこかで秋岡先生のデザインした製品を使っているはずです。超一流の工業デザイナーでしたが、出自からもわかるとおり木工がとても好きで、自宅に工房を造って制作をしていました。私のような家業としての木工家とは違う視点で取り組む木工には大いに刺激されたものです。今の私の制作のスタンスには秋岡先生からの薫陶が大いに関係しています。そんな先生ですからこの本の復刻を思い立ったのでしょう。
以来、私はこの本を多くの木工を学ぶ若者に薦めてきましたが、この復刻版も絶版になりとても残念に思っていました。そこへこのたび二度目の復刻となりました。多くの木工家の希望に出版社が応えてくれました、ありがたいことです。ぜひ多くの方に読まれることを期待しています。
この本が最初に出版された昭和10年頃は木工の作り手にも、また道具の作り手にも名人上手が多くいた黄金時代です。木工具も完成された時代ですが、工業化・情報化の進んだ現在においても多くの道具がそのまま使われ、この本が参考になるのはすごいことです。しかしその後80年の間にこれに代わる本が出ていないことが誠に残念です。時代は変わっていますからやはりここは補訂版、また日本の木工への世界の眼を考えれば英語版が期待されますね。
創元社
The book "Encyclopedia of East Asian Design" one chapter of which contributed by Kenji SUDA has been just published from Bloomsbury Inc. IT was launched as a project named "Asian design encyclopedia project" of IIAS: International Institute for Advanced Studies, and was led by Dr.Haruhiko FUJITA professor the Graduate School of Letters Osaka University in Japan ten years ago.
Research
outline(IIAS)
https://www.iias.or.jp/archive/research/project/pdf/2012_03.pdf
明けましておめでとうございます。
今年も抜けるような青空が広がる快晴の朝で始まりました。やはり元旦は特異日のようです。晴天を眺めながらこの空のような曇りのない心で仕事に取り組みたいと強く思いました。今年もよろしくお願いいたします。
三年目を迎える工房併設の「木工藝ギャラリー清雅」も展示点数が増え、道具や材料の展示も加わりました。木工藝の紹介に努めます。また同じく三年目となる若手作家との研究会にも力を入れて次代を担う作家の成長を期待したいと思います。三越での発表・展覧会も計画しています。
このほか今年も講演会や展覧会への出品を色々と予定しています。現時点での予定を以下お知らせします。
【講演会】
○6月14日 竹中大工道具館開館35周年記念「木組み展」関連講演会/東京・国立科学博物館
○9月20日 同上札幌巡回展関連講演会/札幌・JRタワープラニスホール
【展覧会】
例年通り伝統工芸展は
○4月8日~13日 東日本伝統工芸展/東京・日本橋三越本店
○9月16日~28日 第67回日本伝統工芸展/東京・日本橋三越本店
その他の展覧会は
○1月27日~3月24日 クリエイションの未来展 第21回 宮田亮平監修「九つの音色-Reflection-」/京橋リクシルギャラリー(「日本博」協賛)
…絵画や工芸という分野、そして作家の所属団体の垣根も取り払い9人の作家が集まって「九つの音色」展を始めたのがもう10数年前のことでした。その後5回の展覧会を開き小休止。今回10年近くのブランクを置いての開催です。作家それぞれの発展・変化に出会えるのが楽しみです。
○4月2日~14日 銀座和光にて「工芸・Kōgeiの創造ー人間国宝展」
○9月10日~10月11日 ミケランジェロ財団主催HOMO FABER2020年(オモ・ファベール)展出品/イタリア・ベネチア
○9月から10月 東京国立博物館表慶館にて 日本博覧会「工藝2020」展
○オリンピック・イヤー記念 日本伝統工芸展、日展の垣根を超えた工芸展
2019年もあと残すところ1日。あっという間の1年が終わろうとしています。
5月に隔年開催の伝統工芸木竹展があり、6月には巡回展が神戸の竹中大工道具館で実現しました。道具館の赤尾前館長には長年ご厚誼をいただいておりますが、そのご縁で念願だった巡回展をお引き受けいただき感謝に堪えません。新しい展開を得て作家も奮起しています。巡回展実現までには道具館、木竹部会役員の昨年からの長い準備がありました。ありがとうございました。
その後8月から9月には竹中工務店東京本店内ギャラリーエークワッドで「木工藝 清雅を標にー人間国宝 須田賢司の仕事ー」が開かれました。同ギャラリーの展覧会としては今までになく多くのお客様にご来場いただけたそうです。東京藝大美術館や福岡埋蔵文化財センター、群馬の県埋蔵文化財調査事業団、各地のご所蔵家の皆様のご協力を得て、拙著「木工藝」を実物で表現する展示ができました。以前神戸の竹中大工道具館で開催しましたが、より充実させたものを東京で開催できてとてもうれしく思っています。日本の木工史とその上での私の仕事、作品、さらにそれが生み出される環境、仕事場の再現という3部構成は画期的なものでした。充実した展覧会になりました。その後12月上旬まで小規模ながら福島にも巡回しました。
11月には地元群馬県甘楽町町制施行60周年記念事業の一環として「木工藝 人間国宝須田賢司の仕事」展が開催されました。この展覧会の特徴は何といっても柴田是眞原画による版画「花くらべ」120枚の一挙公開でした。私の作品の生まれる背景として外祖父の漆芸家山口春哉の系譜があり、その3代前の師が是眞なのです。120枚が一度に並んだことはかつてないと思います。壮観でした。この企画を立ててくださった町に感謝申し上げます。
多くのエポックに恵まれた一年でしたが、何といっても文化庁による記録映画の完成が記憶に残る年でした。この時点における私の今までの集大成とも言える作品が出来ましたが、その制作の様子を細かく記録してくださいました。作品とともに「永遠」に保存されるということです。何か生きてきた証を残せたように思います。それに加えこの映画が各方面で好評をいただきいくつかの賞を頂きました。あのキネマ旬報にも紹介されました。毎日映画社の柿沼監督始めスタッフの皆様のお蔭です。声優の堀内賢雄さんのナレーションもぴったりでした。
そして今年最後のトピックはテレビの取材でした。正月4日午後5時から7時まで「人生宝談」に出演いたします。3人の人間国宝が出演します。作品制作より私(私たち夫婦)の人生に力点が置かれたようで気恥ずかしい限りです。
また5人の若手作家との研究会も2年目となりますます、皆さん益々やる気が出てきたようです。頼もしく思っています。
このように健康で充実した一年を送れたことに感謝しています。ありがとうございました。来年もいろいろな仕事が待っています。まだまだ走り続けます。明年もよろしくお願いいたします。
皆さま、よいお年をお迎えください。
このたび「一般社団法人TAKUMI-Art du Japon」の主催による『匠と語る日本の未来』と題する対談シリーズにお招きいただきました。この法人は元文化庁長官で外交官でもあった近藤誠一氏が代表理事を務めており、対談のホストもしていただきます。近藤先生のリードで今までの視点とは違う新しい切り口でお話が進むことを楽しみにしています。
対談『匠と語る日本の未来』
日 時:9月26日(水)18時~
場 所:アークヒルズクラブ(東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビルイーストウィング37階)
ホスト:近藤誠一氏
会 費:一般14,500円、会員12,500円(食事含む)
申 込:かまくら春秋社内 TAKUMI事務局
メール:takumi@kamashun.co.jp
電 話:0467-24-7223
木工芸はあたかも画家がパレットから絵具をとるように、自然の描いた木目、木の表情をよりどころとして作品を生み出します。ですが絵とは異なり木の表情を私たちが自由に描くことはできません。しかし「この木の、この部分で作る」のであって「あの部分」では決してないという時、作者の強靭な意志の下、切り取った木材は自然が作った素材からはじめて作品の要素へと転化します。素材の美しさといってもあくまでそれは作者の生み出したものだとも言えるのです。
とはいっても自然の造形の妙には心打たれるものがあり、常日頃はどうしても銘木に、それも鮪で言えば大トロのような、良材中の良材に目が行くのも事実です。2000本に1本ようやく出現するような縮み杢の楓などその好例です。その木目、木味をまるで自身が描かの気持ちで作品に使ってきました。しかしこのような制作を続けていると、もっと素直に木材の生命感や素材感を生かしたいとの思いが沸き上ってきます。そんな時に我が家の木材倉庫の片隅でこの材が目に留まりました。
赤松皮付の小丸太は通常は数寄屋普請の軒垂木などに使われるようですが、我が家では茶道具、有楽好自在棚に使うために支度してありました。父の下で仕事の修業を始めて後、茶道具、特に棚物は一通り作らされました。細かい決まり事ばかりで工夫の余地はあまりありませんでしたが、日本人の持つ白木に対する思いや木割の美しさを知るきっかけともなりました。その中でもこの自在棚は変わりものでなかなかメカニックな構成になっていて面白いものでした。この棚の大きなポイントが柱に使われた赤松皮付で、このために父が支度がしていたのです。
松は常盤木として古より神の宿る木として大切にされており、正月の松飾りは現代でもなお続いています。この葉の緑も幹の赤茶色との対比でその美しさが一層引き立ちます。葉そのものは枯れてしまうため、幹の美しさや吉祥性を取り込むものとして、赤松の皮付床柱はなかでも格の高いものとされています。そこでこの細い丸太をそのまま生かして、今まで各種素材で作ってきた掛け花入れにしてみようと思い立ちました。しかし父が木取りをしてから30余年経つ材は折角の皮目に傷がついていましたので新たに手配をしたのですがこれがなかなかの難事でした。
もともと建築用に流通する材ですから長さは8尺程度あります。この真っ直ぐな8尺の中に節がなく末口と元口の直径は1寸位でほとんど変化なく皮目にも傷のない材など考えただけでも奇跡的です。しかも人工的に作ったものではなく、実生苗から育ち密生した自然林の中で上部にだけ葉が茂り、陽の当らない下部の枝は枯れ、さらに隣の木と擦れ合って自然に落ちて節が包まれたものなのです。これを根気よく探し出し、夏の暑い盛りに炭火であぶって害虫の駆除などの手入れをする山師は今はもういません。さらに悪いことに松枯れ病が蔓延し松材そのものが危機に瀕しています。父の代より取引のある材木商にもすでになく、東京の木場中を探してようやく手に入れました。ちなみに在庫のみで今後の入荷は望めないとの事です。
丁寧に鬼皮を剥ぎ整えられた赤い肌は何ともいえず美しいものです。それを一層引き立てるために一部のみ削り落し白い木部を露出させました。丁度茶杓筒で竹の表皮を一部そぎ落とすような感覚です。このように松そのもので十分美しいのですが、作者としてはもう少し物語性がほしくなりました。そこで古来「雪月花」として日本人に好まれてきたモチーフの中でも、復活と再生、繁栄の象徴でもあり吉祥性に富む「月」を加えてみました。素材は銀ですが金銷(きんけし)を施し金彩として輝く三日月と致しました。金銷は奈良時代より行われている仕上げ法で、奈良の大仏様もこの技法で仕上げられ当初は燦然と輝いていたはずです。輝きと言っても工業的仕上げと違い落ち着いた金色が特徴で、仕上げ前後で目方が変るほど金が付きます。
素材感を生かすと言っても松の表皮は何もしないと多少はがれますし汚れも付きます。そこで発掘木造文化財などの固化に使う特殊樹脂を含侵させています。ですから多少の水拭きは大丈夫ですがあまり強くこすることは避けてください。
この花入れは材の美しさが一番の見所ですが、その美しさを引き立て日常の中に取り込むお手伝いをしたいと念じ制作いたしました。
木工藝 須 田 賢 司
東京・江東区にあるGallery A4(ギャラリーエークワッド)にて「樹の一脚展 人の営みと森の再生」が開催されています。
会期2月5日~3月31日
場所Gallery A4(10:00-18:00 日・祝日休館)
私たち木工家は作品の材料となる木材をいつもは材木店で買っています。日本の材木店には多くの樹種且つ色々なサイズの材が揃い、それは世界的にもまれにみる充実度だと思います。大量に流通するためには大量に伐採する必要があり、自然破壊にもつながります。地球規模での異常気象が指摘される現代にあって、このような自然の消費の仕方がよいとは決して言えません。ならばその対抗軸として、自分の居住地域に育つ材を使うことを考えよう、という視点でこの展覧会は企画されました。
私には埼玉県川越近郊の「三富=サントメ」地区の材が与えられました。三富地区は最近でこそ語られるようになった”持続可能社会”の在り方を江戸時代から実践していた場所で、その歴史や実際のおこないは大変興味深く、当地の材を使うのはまた意義深いものです。シデ材を使いましたが庭木でいえば「ソロ」です。武蔵野の雑木林の木ですね。一般的な用途は布を織る機に使う「杼=ヒ=シャトル」くらいしか思い浮かびませんが、密度が高い材なので個人的には以前ペーパーナイフを作ったことがあります。同材で椅子を制作した経験はなく、性質を見極めようと薄板にして曲げるなどすると、粘りと強度は十分にあることがわかりました。ぱっと見は白っぽい材色以外に特徴のあるわけではありませんが、よく見れば年輪が均一、材の白さは無機的な感じで作品の形を際立たせてくれるように思います。
このたび、長く絶版となっていた創元社刊「木工具・使用法」(吉見誠述/秋岡芳夫監修)の復刻版が出版となり、ご縁があって帯に推薦文を書かせて頂きました。
『私の道具愛はこの本から始まった。』
15字とあまりに短いので文と言うよりはコピー、檄文です。「道具愛」という言葉があるのかどうかわかりませんが、より多くの方に手に取っていただけるようにと考えました。
原本は昭和10年に府立工芸学校の教諭であった吉見先生がいわば木材工芸科(家具製作科)の教科書として著わしたもの。ちなみに府立工芸は私の母校、水道橋にある都立工芸高校の前身です。吉見先生はもともと芝の家具職人であったため、その記述は実際の使用に裏付けられた詳細なものです。
日本は木の国、木工の国と言われながら実際はその関係書、特に道具の仕立て方、使い方を詳細に述べた本はほとんどないのです。その中にあって本書は、その実用に即した正確な記述で、私が一番信用している本です。
この本の価値に気付いた工業デザイナーの故秋岡芳夫先生が40年前に監修・復刻しました。秋岡先生は私も若い頃にいろいろとご指導いただきました。先生は高等工芸の木材工芸科を卒業され、工業デザイナーとして大変活躍された方。皆さんもきっとどこかで秋岡先生のデザインした製品を使っているはずです。超一流の工業デザイナーでしたが、出自からもわかるとおり木工がとても好きで、自宅に工房を造って制作をしていました。私のような家業としての木工家とは違う視点で取り組む木工には大いに刺激されたものです。今の私の制作のスタンスには秋岡先生からの薫陶が大いに関係しています。そんな先生ですからこの本の復刻を思い立ったのでしょう。
以来、私はこの本を多くの木工を学ぶ若者に薦めてきましたが、この復刻版も絶版になりとても残念に思っていました。そこへこのたび二度目の復刻となりました。多くの木工家の希望に出版社が応えてくれました、ありがたいことです。ぜひ多くの方に読まれることを期待しています。
この本が最初に出版された昭和10年頃は木工の作り手にも、また道具の作り手にも名人上手が多くいた黄金時代です。木工具も完成された時代ですが、工業化・情報化の進んだ現在においても多くの道具がそのまま使われ、この本が参考になるのはすごいことです。しかしその後80年の間にこれに代わる本が出ていないことが誠に残念です。時代は変わっていますからやはりここは補訂版、また日本の木工への世界の眼を考えれば英語版が期待されますね。
創元社
The book "Encyclopedia of East Asian Design" one chapter of which contributed by Kenji SUDA has been just published from Bloomsbury Inc. IT was launched as a project named "Asian design encyclopedia project" of IIAS: International Institute for Advanced Studies, and was led by Dr.Haruhiko FUJITA professor the Graduate School of Letters Osaka University in Japan ten years ago.
Research
outline(IIAS)
https://www.iias.or.jp/archive/research/project/pdf/2012_03.pdf
明けましておめでとうございます。
今年も抜けるような青空が広がる快晴の朝で始まりました。やはり元旦は特異日のようです。晴天を眺めながらこの空のような曇りのない心で仕事に取り組みたいと強く思いました。今年もよろしくお願いいたします。
三年目を迎える工房併設の「木工藝ギャラリー清雅」も展示点数が増え、道具や材料の展示も加わりました。木工藝の紹介に努めます。また同じく三年目となる若手作家との研究会にも力を入れて次代を担う作家の成長を期待したいと思います。三越での発表・展覧会も計画しています。
このほか今年も講演会や展覧会への出品を色々と予定しています。現時点での予定を以下お知らせします。
【講演会】
○6月14日 竹中大工道具館開館35周年記念「木組み展」関連講演会/東京・国立科学博物館
○9月20日 同上札幌巡回展関連講演会/札幌・JRタワープラニスホール
【展覧会】
例年通り伝統工芸展は
○4月8日~13日 東日本伝統工芸展/東京・日本橋三越本店
○9月16日~28日 第67回日本伝統工芸展/東京・日本橋三越本店
その他の展覧会は
○1月27日~3月24日 クリエイションの未来展 第21回 宮田亮平監修「九つの音色-Reflection-」/京橋リクシルギャラリー(「日本博」協賛)
…絵画や工芸という分野、そして作家の所属団体の垣根も取り払い9人の作家が集まって「九つの音色」展を始めたのがもう10数年前のことでした。その後5回の展覧会を開き小休止。今回10年近くのブランクを置いての開催です。作家それぞれの発展・変化に出会えるのが楽しみです。
○4月2日~14日 銀座和光にて「工芸・Kōgeiの創造ー人間国宝展」
○9月10日~10月11日 ミケランジェロ財団主催HOMO FABER2020年(オモ・ファベール)展出品/イタリア・ベネチア
○9月から10月 東京国立博物館表慶館にて 日本博覧会「工藝2020」展
○オリンピック・イヤー記念 日本伝統工芸展、日展の垣根を超えた工芸展
2019年もあと残すところ1日。あっという間の1年が終わろうとしています。
5月に隔年開催の伝統工芸木竹展があり、6月には巡回展が神戸の竹中大工道具館で実現しました。道具館の赤尾前館長には長年ご厚誼をいただいておりますが、そのご縁で念願だった巡回展をお引き受けいただき感謝に堪えません。新しい展開を得て作家も奮起しています。巡回展実現までには道具館、木竹部会役員の昨年からの長い準備がありました。ありがとうございました。
その後8月から9月には竹中工務店東京本店内ギャラリーエークワッドで「木工藝 清雅を標にー人間国宝 須田賢司の仕事ー」が開かれました。同ギャラリーの展覧会としては今までになく多くのお客様にご来場いただけたそうです。東京藝大美術館や福岡埋蔵文化財センター、群馬の県埋蔵文化財調査事業団、各地のご所蔵家の皆様のご協力を得て、拙著「木工藝」を実物で表現する展示ができました。以前神戸の竹中大工道具館で開催しましたが、より充実させたものを東京で開催できてとてもうれしく思っています。日本の木工史とその上での私の仕事、作品、さらにそれが生み出される環境、仕事場の再現という3部構成は画期的なものでした。充実した展覧会になりました。その後12月上旬まで小規模ながら福島にも巡回しました。
11月には地元群馬県甘楽町町制施行60周年記念事業の一環として「木工藝 人間国宝須田賢司の仕事」展が開催されました。この展覧会の特徴は何といっても柴田是眞原画による版画「花くらべ」120枚の一挙公開でした。私の作品の生まれる背景として外祖父の漆芸家山口春哉の系譜があり、その3代前の師が是眞なのです。120枚が一度に並んだことはかつてないと思います。壮観でした。この企画を立ててくださった町に感謝申し上げます。
多くのエポックに恵まれた一年でしたが、何といっても文化庁による記録映画の完成が記憶に残る年でした。この時点における私の今までの集大成とも言える作品が出来ましたが、その制作の様子を細かく記録してくださいました。作品とともに「永遠」に保存されるということです。何か生きてきた証を残せたように思います。それに加えこの映画が各方面で好評をいただきいくつかの賞を頂きました。あのキネマ旬報にも紹介されました。毎日映画社の柿沼監督始めスタッフの皆様のお蔭です。声優の堀内賢雄さんのナレーションもぴったりでした。
そして今年最後のトピックはテレビの取材でした。正月4日午後5時から7時まで「人生宝談」に出演いたします。3人の人間国宝が出演します。作品制作より私(私たち夫婦)の人生に力点が置かれたようで気恥ずかしい限りです。
また5人の若手作家との研究会も2年目となりますます、皆さん益々やる気が出てきたようです。頼もしく思っています。
このように健康で充実した一年を送れたことに感謝しています。ありがとうございました。来年もいろいろな仕事が待っています。まだまだ走り続けます。明年もよろしくお願いいたします。
皆さま、よいお年をお迎えください。
このたび「一般社団法人TAKUMI-Art du Japon」の主催による『匠と語る日本の未来』と題する対談シリーズにお招きいただきました。この法人は元文化庁長官で外交官でもあった近藤誠一氏が代表理事を務めており、対談のホストもしていただきます。近藤先生のリードで今までの視点とは違う新しい切り口でお話が進むことを楽しみにしています。
対談『匠と語る日本の未来』
日 時:9月26日(水)18時~
場 所:アークヒルズクラブ(東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビルイーストウィング37階)
ホスト:近藤誠一氏
会 費:一般14,500円、会員12,500円(食事含む)
申 込:かまくら春秋社内 TAKUMI事務局
メール:takumi@kamashun.co.jp
電 話:0467-24-7223